珍しく、食品の微生物検査のお話。
私は、実務の微生物検査は行ったことないですが、長年、食品原料の品質管理でディレクションだけは行っています。

良くある話。
一般細菌の菌数が弊社測定値と納入先で合わない。
いくつかの理由がある。

1. 45℃以上50℃未満で発芽する芽胞菌が含まれる。
2. 検体の管理が悪い。
3. 原料中の微生物量が不均一
4. 採取時の検体汚染

今回の本題である1以外から解説する。

2は、吸湿して、郵送中などに菌数が増えてしまうケース。特に夏場。
稀なケースだが、輸送中の寒暖差で、袋内に水分が析出して、その部分だけ菌が増える。通常、水分値が低ければ、微生物は増殖しない。
第三者機関に検体を送る場合、徹底している某大手企業は、乾燥材を内袋と外袋のアルミ袋の間に入れさせる。

3は、原料の微生物量にムラがあるケース。好気性の微生物が表面だけで繁殖しているケースが代表例。だから、3点採取して、それぞれ分析したり、3検体をブレンドして分析することがある。

どちらも、稀なケースである。

4は、2・3より多い。
弊社も何度も経験し、嫌な思いをしている。散々詰めた後、検体汚染かもしれないという報告だけでなく、きちんと謝罪すべきである。責任問題に発展するからだろうけど、今まで、一回も謝罪されたことがない。
この問題は、再採取せずに同サンプルで分析し続ける会社もあり、普通、検体汚染の可能性も加味して、再採取すべきだが、自社を疑わない組織ほど、再採取せずに大騒ぎする。

検体に限らず、機器類の微生物汚染の事例もあるが、そのリスクは、フィルム培地の方が低いだろう。

さて、1についてだが、植物原料だと、よくある話。
いや、今後、増えてくるだろうケース。理由は、バチルス菌(芽胞菌)を防カビなどの生物農薬で使用される農作物が増えてきているため。
特に、有機の農作物では、多く利用され、年々、使用率も増えている。

こういった微生物が残ってしまう。または、僅かな残留が製造工程で増えてしまう。特に、加熱殺菌が行いにくい原料。

なぜ?差が生じるのか?

ちなみに、米国薬局方の手法だと、この差が生じにくい。

曖昧な混釈温度が理由。

日本の基準では、混釈時の培地温度は、45~50℃と幅がある。そのため、45℃強で混釈しているケースもあれば、49℃強で混釈しているケースがある。

そのため、45~50℃で発芽する芽胞菌の発芽や培養に差が生じる。こういった芽胞菌が多ければ多いほど、差が生じやすくなる。
要するに、混釈温度が高ければ高いほど、微妙な芽胞菌を発芽させてしまいやすくなるということです。
私は、米国のように幅がなく約45℃と設定されるべきだと思っている。その方が各試験機関で一定した値が示されやすいだろう。

ちなみに、一般細菌数の一般細菌とは、決められた手法で調整され、空気がある状態(;好気性)で35℃前後で培養される菌を指す。実は、培養されないだけで、培養できない低温菌や好熱菌、嫌気性菌が存在する。好熱菌は、主に芽胞菌(有胞子性乳酸菌を含む)である。嫌気性菌は、数多く存在するが、最も注意すべきは大腸菌である。

芽胞菌管理の大変なところ、休眠性があること。
また、混釈工程がないフィルム培地では、検出しにくいこと。
実際、弊社でも確認されている。
しかも、休眠菌は、45~50℃の加温でもすぐに起きず、時間経過で発芽するようになる。かつ、熱殺菌できない菌。品質管理者にとって、そんな恐ろしい菌はない。

まぁ、苦労して予防方法や滅菌方法も確立したが、これは、完全にノウハウであり企業秘密。確実に特許性あるけど、特許にもできん。

だから、弊社では、一部の原料に対して、好気性芽胞菌のチェックもモニタリング試験として実施している。
一般細菌数と同じだったり、芽胞菌数の方が多いケースもある。
これは、同数であれば、一般細菌数の菌は、ほぼほぼ普通の(休眠性がないく40~50℃で発芽する)芽胞菌であり、芽胞菌数が多ければ、休眠性芽胞菌や好熱性芽胞菌が含まれていることを意味している。

好熱菌の割合を厳密に測定したければ、70℃で培養するなど、好熱菌の試験条件で試験を実施すれば菌数がわかるだろう。でも、一般細菌ではないので、基本、管理する必要はない。
むしろ、50℃くらいで処理し、休眠性芽胞菌を発芽させてから分析した方が管理上の意味があるだろう。
ちなみに、休眠性芽胞菌が多ければ多いほど、試験による差が生じやすいだろう。

まぁ、50℃超で発芽しない好熱性芽胞菌は、水分値が高い過熱を伴う加工食品やレトルト食品で問題になることがあるが、健康食品サプリメントでは、問題になることはほぼない。
面倒なのは、35℃では発芽せず、45~50℃で発芽する芽胞菌。フィルム培地では、測れないことも多いだろう。

ちなみに、日本食品分析センターでは、有胞子性乳酸菌は、好気性芽胞菌としか呼ばないようです。納豆菌や枯草菌などのバチルス菌と同じ扱い。
正しいと思う。
そして、その有胞子乳酸菌は、健康食品サプリメント工場でも多く利用され、4のような汚染を招くこともある。

何れにしても、セレウス菌以外、ほとんどの芽胞菌は、体に悪い訳ではない。
米国などでは、食品の公定法に指定されているフィルム培地で培養されない芽胞菌を全く問題視しないことがほとんどです。でも、標準寒天培地法を未だ用いている国内では、確実に品質管理上で問題視される。

まぁ、35℃で発芽せず培養されないけど、混釈工程で加温された場合だけ発芽して大増殖するのは、値としてどちらが正しいのか?疑問に感じてしまいます・・・。

基本、混釈の温度で発芽しているだけで、35℃前後では培養されない微生物なので、体内で増えて悪さをしようがない。むしろ、有効性(整腸作用や免疫賦活)すら示す可能性がある。
だから米国は、安全上、問題ないと判断しているのだろう。

また、日本も、これだけ人材不足が深刻化している中、かつ管理基準が厳格化される状況、いつまで手間がかかりエコじゃない標準寒天培地法を使い続けるのだろう・・・。

そもそも論だが、植物抽出物でも一般細菌数3000個/g以下という日本の規格は、多くが10000個/g以下の海外では、必ずナンセンスだと言われる。彼らからすると、植物抽出物の場合、3000と5000は誤差であり、10000で決して事故が行らないと考えている。まぁ、刺身は普通に何十万の菌数ですから。

まぁ、極論、管理上で原料の受け入れで3000個/gを原料メーカーに押し付けても、OEM会社の立場では、リスクマネージメントとして、バルクの規格は少し緩くしておくべきだと思う。厳格過ぎると、自分達の首を絞めるだけ。実際、緩くしている大手受託加工会社が存在する。

最後に、上記のような知識がなければ、高めの混釈温度で試験を実施してしまい、原料メーカーや第三者機関での実施値より高い値が出たと大騒ぎ/混乱してしまう。

品質管理のオペレーターなら許されるけど、品質管理のディレクターだと許されない。
実務を行わない分、知識を武器に、安全管理を徹底しなければならない。私も20年以上積み重ねていますが、日々学びです。